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『鬼滅の刃』と『国宝』はなぜここまで刺さったのか?社会現象級ヒットに共通する “物語マーケティング” の正体


目次

  1. 二つの映画を並べて語る意味
  2. 共通点①:興行収入ではなく「体験価値」でヒットした映画
  3. 共通点②:死と継承を軸にした、濃密な「生き方」の物語
  4. 共通点③:ファンとリピーターを生む設計思想
  5. マーケティング的ポジショニング比較表
  6. メリットとデメリット:大ヒットがもたらす光と影
  7. ターゲットと今後の課題
  8. 自社ビジネスへの応用ポイント
  9. まとめ:ヒット映画から学べる「ブランドづくり」の核心

1.二つの映画を並べて語る意味

『劇場版 鬼滅の刃』は、日本映画史上トップクラスの興行収入を記録し、文字通り「社会現象」と呼ばれるレベルの映画ヒットになりました。(ビジネス+IT)

一方、吉田修一の小説を原作とし、李相日監督がメガホンを取った『映画 国宝』も、歌舞伎というニッチなテーマでありながら、実写邦画として歴代最高クラスの興行収入と観客動員を叩き出し、「想定外の大ヒット」として各メディアで取り上げられています。(ダイヤモンド・オンライン)

一見すると、

  • 片方はアニメ×少年漫画原作
  • もう片方は実写×文芸原作×歌舞伎

と、まったくタイプの違う映画です。

それなのに、

  • 圧倒的なファンコミュニティ
  • 高いリピーター
  • 長期にわたるロングラン上映

という共通した現象を引き起こしている。
ここには、マーケティング的な「共通のメカニズム」が確実に存在します。

この記事では、両作品の共通点違いを整理しながら、

「なぜここまでヒットしているのか?」
をマーケター視点で推察していきます。


2.共通点①:興行収入ではなく「体験価値」でヒットした映画

まず押さえたいのは、両作品とも単に「数字がすごい作品」ではなく、
“映画館で体験する意味” を取り戻した作品だという点です。

『鬼滅の刃』:映像×音響×物語の「総合格闘技」

『鬼滅の刃』はテレビアニメから火がつき、劇場版で一気に爆発しました。
アニメーション制作スタジオによる高品質な映像と演出が、「テレビの延長」ではなく「映画館で観る必然性」を作ったと、多くの分析で指摘されています。(Buzz Beaver)

  • 大画面で観てこそ活きるアクション
  • 音響や音楽と一体化したクライマックス
  • ファン同士で「一緒に泣く」「一緒に叫ぶ」共有体験

こうした要素が、単なるコンテンツ消費を超えた「儀式」に近い体験を生みました。

『国宝』:長尺なのに「長く感じない」没入体験

『国宝』は、歌舞伎役者の半生を描く長尺の人間ドラマです。
通常、「上映時間が長い映画」は敬遠されがちですが、『国宝』の場合は逆に

「長いのに、まったく長く感じない」

という口コミが広がり、上映時間そのものが強みとして語られました。(アドタイ)

  • 役者の芝居に没頭する
  • 舞台裏のディテールに引き込まれる
  • 人生の時間を共に駆け抜ける感覚

これもまた、「映画館で二度、三度と体験したくなる物語」になった理由です。

共通項:数字ではなく「体感」を売っている

両作品に共通するのは、
興行収入というアウトカムではなく、
体験価値というプロダクトを徹底的に磨き込んだこと。

マーケティング的には、

  • 商品スペック(上映時間・映像技術・キャスト)
  • プロモーション(広告・タイアップ)
    だけではなく、

「観客が映画館から出てくるとき、どんな感情状態になっているか」

までをデザインしている点が特徴です。


3.共通点②:死と継承を軸にした、濃密な「生き方」の物語

『鬼滅の刃』も『国宝』も、テーマとして非常に強く共通するのが、
**「死」と「継承」と「生き方」**です。

『鬼滅の刃』:死者と共に歩む物語

多くの論考で指摘されているように、『鬼滅の刃』は単なるバトルものではなく、
「死者に寄り添う作品」であると分析されています。(Nippon)

  • 家族を失った主人公
  • 仲間の死を背負う隊士たち
  • 鬼側にもある「過去」と「喪失」

死を「終わり」ではなく、「受け継がれる想い」として描くことで、
観客の日常の喪失体験とも強く共鳴しました。

『国宝』:芸を通じて生き方を問い直す物語

『国宝』は、任侠の家に生まれた少年が、歌舞伎の世界に入り、
芸の道に人生を捧げていく物語です。(映画.com)

  • 「家」や「一門」への忠誠
  • 師弟関係、ライバルとの緊張感
  • 老いと衰え、次世代へのバトン

ここでも、個人の成功物語ではなく、
「自分の人生を何に捧げるのか」という問いが、一貫して描かれます。

テーマの共通項:現代人の「ニーズ」に直撃

現代の観客は、

  • 終わりの見えない不況
  • 終わらない働き方
  • 予測不能な社会

といった不安の中で、「どう生きるか」のヒントを無意識に求めています。

両作品は、

  • 死と喪失の中でも前に進む姿
  • 自分の役割に命を懸ける人物像
  • 誰かから受け継ぎ、次に渡す生き方

を、圧倒的な密度で見せることで、観客の深いニーズに応えました。
ここに、「ただ楽しいだけではない、忘れられない映画体験」が生まれています。


4.共通点③:ファンとリピーターを生む設計思想

ヒットを語るうえで外せないのが、リピーターと熱量の高いファンの存在です。

『鬼滅の刃』のファン設計

各種分析では、『鬼滅の刃』は

が連鎖的に展開され、
「一度見て終わり」ではなく、「ずっと追いかける」ブランドになりました。

『国宝』のファン設計

『国宝』は「歌舞伎」というハードルの高いテーマにもかかわらず、

  • 主演俳優のファン
  • 原作ファン
  • 歌舞伎や伝統芸能のファン
  • 組織論やリーダーシップに関心のあるビジネス層

など、複数の入口を用意し、結果的に老若男女を巻き込む形になりました。(ダイヤモンド・オンライン)

さらに、

  • 上映延長
  • 舞台挨拶付き上映
  • 字幕・音声ガイドなどのバリアフリー対応

といった施策により、多様な観客が繰り返し劇場に足を運びやすい設計になっています。(TOHO THEATER LIST)

共通項:ファンが自ら宣伝してくれる構造

二作品とも、本質的には

「観た人が、他人に語らずにはいられない」

という構造を持っています。

  • 強烈なクライマックス
  • 語りたくなるセリフ
  • 心をえぐるドラマ

これらはすべて、口コミとSNS拡散を前提にした設計とも言えます。(note(ノート))


5.マーケティング的ポジショニング比較表

ここで一度、両作品のポジショニングを整理してみます。
(※依頼どおり、表の中に数値情報は入れていません)

表1:『鬼滅の刃』と『国宝』のポジショニング比較

視点鬼滅の刃(劇場版シリーズ)国宝
メイン媒体アニメ映画実写映画
原作少年漫画文芸小説
主要テーマ家族愛、仲間、死と再生、悪との戦い芸道、承継、家、組織、人間関係の葛藤
体験の質映像と音響のインパクトが強いエンタメ性芝居と空気感に浸る濃密なドラマ性
ファンの入口漫画、アニメ、ゲーム、グッズ小説、俳優、歌舞伎、監督
コミュニティの形キャラクター推し中心の広いファンダム作品世界や役者の「生き方」への共感コミュニティ
ブランドイメージ王道バトルと感動のエンタメブランド芸術性と人間ドラマを兼ね備えた大人向けブランド
主なニーズスカッとした感動、没入型エンタメ深く心に刺さる人生ドラマ、考えさせられる時間
差別化要素和風ダークファンタジー×圧倒的映像歌舞伎という題材と長尺の没入ドラマ
ヒットのドライバーメディアミックスとSNSでの爆発的拡散口コミと評判でのロングラン、作品力の評価

ポジショニングはかなり違うにもかかわらず、
どちらも映画館での体験を核にし、ファンコミュニティを育てることで
長期的な映画ヒットへとつなげている点が分かります。


6.メリットとデメリット:大ヒットがもたらす光と影

大ヒットには、もちろん大きなメリットがある一方で、
次回作や関係者にとってのプレッシャーや課題も存在します。

表2:大ヒット作品のメリットとデメリット

視点メリットデメリット
制作側ブランド価値の向上、次作への投資余力、企画の自由度向上期待値の過剰上昇、チャレンジしづらくなる、失敗した場合の反動
俳優・声優陣認知度アップ、キャリアの飛躍、ファンの増加イメージ固定化、役の重さによる精神的負担
ファン共通の話題で盛り上がれる、コミュニティ形成「ついていくコスト」の増加、ライト層が入りにくくなる
映画産業市場全体の活性化、新規層のシネコン来場一極集中によるラインナップの偏り、中規模作品の埋没

『鬼滅の刃』は、映画だけでなく、関連商品やイベントなども含めた巨大IPとして成長し、経済効果レベルで語られます。(note(ノート))

『国宝』は、実写邦画のヒットのあり方を更新し、「歌舞伎」や「芸」という、やや敷居の高い世界への入口を広げました。(ダイヤモンド・オンライン)

その一方で、どちらの作品も、
次の展開に対する期待値が極端に高くなるため、
**「次も同じレベルを求められる」**というリスクを抱えることになります。


7.ターゲットと今後の課題

ここからは、マーケターらしくターゲット今後の課題に整理してみます。

ターゲットの整理

  • 鬼滅の刃
    • コア:アニメ・漫画ファン、若年層の推し活層
    • セカンダリ:親子連れ、ライトな映画ファン、海外アニメファン
  • 国宝
    • コア:原作ファン、俳優ファン、映画好きの大人層
    • セカンダリ:歌舞伎・伝統芸能ファン、ビジネスパーソン、カルチャー志向の高い層

今後の課題

両作品に共通する大きな課題は、

「ヒットが終わったあとに、どんなブランドとして残るか」
です。

具体的には、次のようなポイントが挙げられます。

  • 映画館公開が終わった後も、
    • 配信
    • Blu-ray
    • 展示イベント
    • コラボ企画
      などを通じて、「単発のブーム」で終わらせず、長期のブランド価値に変換できるか。
  • ヘビーなファンだけでなく、ライト層にもアクセスできる「入り口」を作り続けられるか。
  • 『鬼滅の刃』の場合は、
  • 『国宝』の場合は、
    • 歌舞伎や伝統芸能への興味を持った観客を、
    • 「一過性の映画体験」に終わらせず、
    • 日本文化全体への継続的な関心につなげられるか。(ITmedia)

8.自社ビジネスへの応用ポイント

ここまでの話を、一般の事業・ブランドに落とし込むと、
次のような学びが抽出できます。

ポイント1:ヒットの前に「物語」をつくる

どちらの作品も、

  • 企画段階から「生き方」「継承」「死」など、
    深いテーマを持っていました。

商品やサービスのマーケティングでも、

「このブランドは、顧客のどんなストーリーに寄り添うのか?」
を先に設計しておくことで、一過性でないファンを生みやすくなります。

ポイント2:差別化は、あえて「ハードル高めのテーマ」でもいい

『国宝』が示したように、
一見ニッチな題材でも、

  • 高いクオリティ
  • 魅力的なキャスト
  • 分かりやすい感情ライン

が揃えば、むしろ強烈な差別化になります。(JBpress(日本ビジネスプレス))

ビジネスでも、
「分かりやすい安全なテーマ」だけを追うのではなく、
尖ったコンセプトにリソースを集中させる戦略は十分アリです。

ポイント3:ファンとリピーターを前提に設計する

  • 一回買って終わり
  • 一回参加して終わり

ではなく、

「この体験を気に入った人が、その後どんな行動をしたくなるか?」

までをデザインすることが重要です。

映画で言えば、

  • 二度目の鑑賞
  • 友人への推薦
  • グッズ購入
  • 関連イベントへの参加

ビジネスなら、

  • 定期購入
  • アップセル
  • コミュニティ参加
  • 紹介・口コミ

などに置き換えられます。


9.まとめ:ヒット映画から学べる「ブランドづくり」の核心

最後に、両作品の共通点を、マーケティング視点で一行にまとめると、

「深いテーマを持った物語を、映画館での圧倒的な体験価値として届け、その結果としてファンとリピーターが自然発生した」

ということになります。

  • 映画としてのクオリティ
  • 観客の心の奥にあるニーズ
  • 強烈な差別化
  • 長く愛されるブランドになるためのファン設計

これらをすべて満たしたからこそ、
『鬼滅の刃』も『国宝』も、ただのヒットを超えた社会現象的なヒットになったと言えるでしょう。

あなたのビジネスやコンテンツに置き換えるなら、まず問いかけるべきは、

  • 「この商品は、お客さんのどんな人生の物語に寄り添うのか?」
  • 「その物語を、一度きりではなく、何度も味わいたくなる体験にできているか?」

この二つを真剣に設計したとき、
小さなブランドでも、「自分たちなりの鬼滅」「自分たちなりの国宝」を
生み出すことができるはずです。


この記事を書いたライター

ゆいマーケロゴ

ゆいマーケメディア編集部
今話題になっているテーマを、マーケティング視点で分かりやすく記事にして解説します!

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