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「ブラックフライデー=安売りの日」で終わらせない。

― EC・通販ブランドが“利益”と“ブランド力”を同時に上げる設計図 ―


目次

  1. ブラックフライデーとは?世界と日本での位置づけ
  2. なぜ今、EC・通販市場にとってブラックフライデーが“外せない日”なのか
  3. 「安くするだけ」はもう古い? 新メニュー・高価格帯を仕込む発想
  4. ブランディングとUSPから逆算するブラックフライデー戦略
  5. 施策別「メリットとデメリット」を整理する(比較表)
  6. ターゲット別コミュニケーション設計(比較表)
  7. 成功要因と、ブラックフライデーでよく起こる“失敗パターン”
  8. 中小EC・個人ブランドが今年からできる実践ステップ
  9. まとめ:一年でいちばん「学べる」セールにする

1. ブラックフライデーとは?世界と日本での位置づけ

アメリカ発「一年で最も忙しい買い物の日」

ブラックフライデーとは、アメリカの感謝祭(11月第4木曜日)の翌日に行われる、大規模なセールの日です。もともとは、感謝祭翌日に人と車が街にあふれ、大混雑になる様子を警察が「ブラックフライデー」と呼んだことが始まりとされ、その後「この日を境に小売店の帳簿が赤字(red)から黒字(black)に転じる日」というポジティブな意味合いで定着していきました。(ウィキペディア)

現在では、実店舗だけでなくECでも大規模セールが行われ、クリスマス商戦のスタートを告げるイベントとして、世界中に広がっています。(ウィキペディア)

日本におけるブラックフライデー

日本では感謝祭という文化はありませんが、大手量販店やショッピングモール、ECモールがブラックフライデーを独自に導入することで広まりました。特に、イオングループなどの小売と、Amazonや楽天市場といった大手ECモールがキャンペーンを展開し始めたことで、2010年代後半から一気に認知度が上がっています。(Bottleship Marketing)

日本のブラックフライデーには、アメリカと比べて次のような特徴があります。

  • 期間が長い:ある一日だけではなく、11月中旬〜下旬にかけて数日〜数週間のセールを行うケースが多い(Stripe)
  • EC・通販中心:深夜から並ぶ“突撃型”より、オンラインでじっくり比較して買うスタイルが主流(eSIM Japan)
  • 「年末商戦のスタート」という意味合い:年末年始セールや福袋、初売りにつながる“最初の山”として位置づけられている(Stripe)

さらに、日本の消費者は「量より質」を重視し、ポイント還元や限定品、セット商品など“お得感+特別感”に価値を感じる傾向が強いと言われます。(Covue)

つまり、ブラックフライデー=とにかく安く売る日と捉えるのは、かなりもったいない。
日本のEC・通販市場では、もっと「戦略的な活用余地」が残されています。


2. なぜ今、EC・通販市場にとってブラックフライデーが“外せない日”なのか

年末まで続く「購買モードON」のスイッチ

ECや通販の立場から見ると、ブラックフライデーは、単なる売上の山ではなく、顧客の“購買モード”にスイッチを入れる起点です。

  • このタイミングで、「今年はどういう買い方をしようか」と考え始める
  • 各社のセールを比較しながら、候補ブランドのリストが頭の中にできあがる
  • ポイント残高やクーポン、年末のボーナスの使い方を意識し始める

こうした行動変化は、日本の年末商戦全体の売上や、小売全体の11月の小売販売額にも表れているとされます。(Reuters)

つまり、ブラックフライデーは**「今年、どのEC・通販を“推しブランド”にするかを決める最初の接点」**になりやすいのです。

ECにとっての「実験場」としての価値

ブラックフライデーは、次のような意味で、EC・通販にとって最高の“実験場”でもあります。

  • 新メニュー(新商品・新サービス)のテスト
    限定フレーバー、コラボ商品、サブスクの特別プランなどを、短期間で露出・検証できる。
  • クリエイティブ・コピーのA/Bテスト
    LP、バナー、メール、SNS広告を同時多発的に回し、どの打ち手が刺さるかを学べる。
  • ターゲットセグメントごとの反応差の可視化
    新規顧客、リピーター、休眠顧客など、セグメント別にオファーを変えて反応を見ることで、翌年以降のCRMに活かせる。(BigCommerce)

「セールだから利益が削られる」のではなく、
**「学習コストを払って、来年以降のLTVを最大化する投資の場」**と捉える視点が、マーケターには必要です。


3. 「安くするだけ」はもう古い?

新メニュー・高価格帯を仕込む発想

ブラックフライデーというと「割引率何%オフ」というイメージが強いですが、
差別化を図りたいブランドほど、**“安さ勝負以外の軸”**を用意すべきです。

ここでキーワードになるのが、新メニュー高価格帯です。

3-1. 新メニューを出すなら「お試し」より「世界観」を見せる

ブラックフライデーで新メニュー(新商品・新プラン)を投入する場合、
単なる“お試し用の廉価版”にしてしまうと、USPもブランディングも弱くなります。

むしろ、

  • ブランドの世界観
  • コアな価値観
  • 将来出していくラインナップの方向性

を象徴するような商品を出す方が、EC・通販の「ファン作り」には有効です。

例:

  • コーヒーEC:
    通年商品とは別に、産地や焙煎哲学を前面に出した「ストーリー性のある限定セット」を新メニューとして出す。
  • D2Cコスメ:
    成分だけでなく、使用シーンやライフスタイルの提案をパッケージや同梱冊子で語る特別企画品を出す。

ブラックフライデーは、**「うちのブランドは、こういう価値観で勝負します」**と宣言するタイミングとしても使えるのです。

3-2. なぜあえて高価格帯を仕掛けるのか

セールだからといって、すべてを低価格に寄せる必要はありません。
むしろ、高価格帯の商品を打ち出せるブランドほど、市場でのポジションが安定しやすいと言えます。

  • 「普段は手が届かないが、この機会なら」と思わせる高価格帯ライン
  • 体験やストーリーをセットにしたプレミアムパッケージ
  • 長期保証やコミュニティ参加権など、金額以上の価値を見せる設計

ブラックフライデーだからこそ、“高価格帯のUSP”を分かりやすく提示するチャンスになります。(firework.com)


4. ブランディングとUSPから逆算するブラックフライデー戦略

値引き率からではなく、ブランドの方向性とUSPから逆算するのが、ブラックフライデー設計の基本です。

4-1. まず「どんなブランドとして記憶されたいか」を決める

  • 「圧倒的にコスパが良いEC」として記憶されたいのか
  • 「高価格帯でも納得感のあるプレミアムブランド」として認識されたいのか
  • 「新メニューやコラボが楽しみな、遊び心ある通販ブランド」にしたいのか

この軸が固まっていない状態で、
「他社が◯%オフだから、うちも…」と値引きだけ真似すると、
ブランドのブレや、顧客の混乱を招きます。

4-2. USPを“オファー”に翻訳する

USP(Unique Selling Proposition)は、単なるフレーズではなく、
オファー(具体的な提案)に落とし込まれたときに初めて、売上に効きます。

  • 「プロが選んだ厳選◯点」 → ブラックフライデー限定の“プロセレクトセット”
  • 「長期的なサポート」 → セール期間中の申込だけ、サポート期間を延長
  • 「コミュニティ性」 → 購入者限定のオンラインイベントや限定コンテンツへの招待

USPを「何を・誰に・どう届けるか」という形で設計し直すと、
ブラックフライデーのオファーも、ブランディングと一貫性を持たせやすくなります。(markopolo.ai)


5. 施策別「メリットとデメリット」を整理する(比較表)

ブラックフライデーの施策は、ざっくり次のようなタイプに分けられます。
それぞれのメリットとデメリットを整理しておきましょう。

表1:ブラックフライデー施策タイプ別「メリットとデメリット」

施策タイプ概要主なメリット(EC・通販側)主なデメリット・リスク
大幅値引き型定番商品の価格を一気に下げるトラフィックが増えやすい/在庫処分に向く粗利の圧迫・安売りイメージ/リピーターの単価下落
セット売り・バンドル型複数商品をまとめてお得なセットにする客単価アップ/在庫の組み合わせ調整がしやすいセット内容が魅力的でないと、逆に複雑に見える
高価格帯プレミアム型通常より高い価格帯の限定商品や体験型商品を出すブランドの格を上げやすい/コアファンのLTV向上売上数量が読みづらい/説明不足だと「高いだけ」に見える
サブスク・会員制サービス訴求型月額・年額の定額制サービスに特典を付けて販促する継続課金による安定収入/LTV最大化につながる解約率とのバランス設計が必要/サポート負荷が増える
新メニュー・新ブランドお披露目型新商品・新ラインをセールと同時にローンチする話題化しやすい/既存顧客に新カテゴリーへのクロスセルがしやすい準備負荷が高い/短期で評価されやすく中長期検証が難しい

このように、どの施策にもメリットとデメリットがあります。
重要なのは、自社のターゲットと市場ポジションに合った組み合わせを選ぶことです。


6. ターゲット別コミュニケーション設計(比較表)

ブラックフライデーは、「誰に」「何を期待して」来てもらうかを決めないと、
ただアクセスが増えるだけの“お祭り騒ぎ”で終わってしまいます。

表2:ターゲット別コミュニケーションの軸

ターゲット主なニーズ・心理刺さりやすいメッセージ例有効なチャネル例
初めて訪れる新規顧客お得に試したい/失敗したくない「初回限定・人気セット」「口コミ高評価から厳選」SNS広告、インフルエンサー投稿、SEO
既存のリピーターいつも買っているブランドで、少し贅沢したい「会員限定」「いつもありがとうございます。特別セットをご用意」メール、LINE公式、アプリPUSH
休眠顧客・しばらく購入がない顧客以前の印象は良いが、他ブランドへ流れている「お久しぶりの方へ」「前回からアップデートしたポイントを紹介」メールリマインド、リターゲティング広告
高価格帯を受け入れる“コアファン”ブランドを応援したい/限定感・特別感を求める「ブラックフライデーだけのプレミアム体験」「数量限定コレクション」限定コミュニティ、DM、クローズドSNS
比較検討に時間をかける慎重派ユーザー損をしたくない/長期的なコスパを重視「長期保証」「サポート内容を詳細に」「他社との違いを丁寧に説明」比較記事LP、レビューコンテンツ、FAQ

ここで意識したいのは、
ターゲットの心理に合わせて、訴求する“メリット”を変えることです。

同じブラックフライデーでも、

  • 新規には「失敗しない安心感」
  • コアファンには「限定性とブランドへの共感」

といった形で、コミュニケーション内容を変えていく必要があります。


7. 成功要因と、ブラックフライデーでよく起こる“失敗パターン”

7-1. 成功しているEC・通販に共通する「成功要因」

ここ数年のブラックフライデーを観察すると、成功しているブランド・ECには、次のような共通点があります。(Next Level)

  1. ゴールが「売上」だけで終わっていない
    • 新規会員登録数
    • メルマガ・LINE登録数
    • レビュー投稿数
    • サブスク・定期購入への移行率
      といった中長期の指標を、最初からKPIとして置いている。
  2. キャンペーン設計が「ストーリー」になっている
    • ブラックフライデー → サイバーマンデー → クリスマス → 正月
      までを一つのストーリーとして捉え、「続きが気になる」構成になっている。
  3. ECサイトの体験に“ローカライズ”が効いている
    • 日本人が重視するレビュー表示や、ポイント還元の見せ方が丁寧
    • 配送・返品ポリシーが、年末の忙しい時期でも安心して使える設計になっている(Covue)
  4. データと顧客の声を、翌年のブラックフライデーにきちんと活かしている
    • CVRやLTVだけでなく、問い合わせ内容やSNSのコメントも含めて振り返りを行う。
    • 「今年の学び」を必ずドキュメント化している。

7-2. よくある失敗パターン

逆に、よくある失敗パターンは次のようなものです。

  • 安くしすぎて“後戻りできない”価格認知を作ってしまう
    → 通常価格に戻した途端、売れなくなり、「常に何かしら割引しているブランド」というイメージがつく。
  • 在庫とオペレーションを甘く見積もる
    → 人気商品が一瞬で売り切れ、広告だけ回り続けてしまう。
    → 倉庫やカスタマーサポートがパンクし、口コミでの評価が下がる。(ウィキペディア)
  • ターゲット不在の“なんでもセール”をしてしまう
    → ページもLPも「全部安いです!」だけで、結局何を買えばいいか分からない。
    → ブランドのUSPが見えず、比較サイトの一枠として埋もれてしまう。

ブラックフライデーは、売上のチャンスであると同時に、
ブランドの弱点も露骨に炙り出されるイベントだと言えます。


8. 中小EC・個人ブランドが今年からできる実践ステップ

「うちは小規模だから、ブラックフライデーなんて…」
そう感じるEC・通販も多いですが、むしろ小さなブランドほど、尖った戦略で差別化しやすいタイミングです。

ステップ1:今年は「たったひとつの目的」に絞る

  • 新規顧客を増やしたいのか
  • メール・LINEリストを増やしたいのか
  • サブスク・定期購入に移行させたいのか
  • 高価格帯商品のテストをしたいのか

目的が複数あると、メッセージも施策もブレてしまいます。
今年は一つに絞り、他は“ついでに取れたらラッキー”くらいに構えるのが現実的です。

ステップ2:ターゲットを“具体的な人物”レベルまで落とす

「20〜40代の男女」ではなく、

  • どんな仕事・ライフスタイルか
  • 何曜日・何時にECを見ることが多いか
  • どんな比較サイトやSNSをよく使うか
  • 年末の買い物で、何を重視しているか

といった粒度までターゲットを具体化します。
ブラックフライデーのような混雑した市場では、
抽象的なターゲット設定 = 誰にも刺さらないメッセージになりがちです。

ステップ3:新メニュー or 高価格帯のどちらかを「必ず」仕込む

たとえ小さい規模でも、

  • 限定セット
  • 特別な組み合わせ
  • 通常は出さない高価格帯のフルラインセット

といった“ブラックフライデー専用のメニュー”を1つ以上用意しましょう。

これが、そのまま**自社ECのUSPの「実物見本」**になります。

ステップ4:メリットとデメリットを「正直に書く」

ブラックフライデーのLPや商品ページでは、
メリットだけでなく、あえてデメリットや向かない人も書くことが、
結果的にコンバージョンの質を高めます。

例:

  • 「じっくり味わいながら楽しみたい方向け。
     とにかく量を求める方には向きません。」
  • 「定期的に使う習慣がある方向けのサブスクです。
     一度だけ試したい方には“単品購入”をおすすめします。」

こうした“正直さ”は、日本の慎重なECユーザーの信頼を得やすいポイントでもあります。(Covue)

ステップ5:終わった直後に「来年のメモ」を残す

ブラックフライデーが終わった直後こそ、

  • 何がうまくいったか
  • どこに課題があったか
  • どのターゲットがよく反応したか

をざっくりメモに残す絶好のタイミングです。

翌年になると、「細かい感覚値」はきれいさっぱり忘れてしまいがち。
たとえ一枚のメモでもいいので、**“来年の自分へのラブレター”**として残しておくと、
毎年ブラックフライデーの精度が上がっていきます。


9. まとめ:一年でいちばん「学べる」セールにする

ブラックフライデーは、
単なる「大セールの日」ではなく、

  • EC・通販市場全体の空気が一気に“購買モード”になる日
  • 自社のブランディングやUSPが、世の中にどう見えているかが試される日
  • 新メニューや高価格帯ラインをテストできる、貴重な実験の場

だと言えます。

ポイントは、安売りの日として終わらせないこと。

  • ターゲットを具体的に絞る
  • ブランディングとUSPから逆算してオファーを作る
  • 施策ごとのメリットとデメリットを理解したうえで選ぶ
  • キャンペーン全体を「一年かけて育てる企画」の一部として設計する

こうした視点でブラックフライデーに向き合えば、
売上だけでなく、ブランドのファン・ECとしての信頼・来年への学びを同時に手に入れられます。

あなたのブランドにとって、
「ブラックフライデー=最も利益率が悪い日」ではなく、

「ブラックフライデー=一年でいちばん学びと成長が大きい日」

に変えていきましょう。

その第一歩として、
今年は「たったひとつの目的」と「ひとつの新メニュー/高価格帯ライン」を決めるところから、静かに始めてみてください。

この記事を書いたライター

ゆいマーケロゴ

ゆいマーケメディア編集部
今話題になっているテーマを、マーケティング視点で分かりやすく記事にして解説します!

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